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5弦ベースのメリットとデメリット、4弦ベースとの違いについて
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プロミュージシャンをはじめとして、多くのベーシストが近年手にしているのが5弦ベースです。5弦ベースじゃなければ演奏ができない曲も多く、購入を検討されている方は少なくありません。実際に私の店に訪れるお客様の中にも5弦ベースを探している方は多くいらっしゃいます。
しかし、5弦ベースは新しいスタイルであるゆえにその概要やメリット・デメリットといった部分の理解が難しいことがあります。
今回の記事では、5弦ベースについての基本的な知識を解説いたします。
目次
5弦ベースとは
5弦ベースとは、一般的な4弦ベースに低い音が出る太い弦を追加したものを指します。中には高い音が出る細い弦を追加したものもあります。その特徴からそれぞれの弦はローB弦、後者はハイC弦と呼ばれます。
エレキベースの元になっているのはコントラバスですが、もともとコントラバスには5弦ベースの仕様のものもありました。ただし、大きく一般的ではありません。
エレキベースが一般的になったのは1950年代のことですが、時代が進んで1980年代にはシンセサイザーなどが音楽シーンで活用され始め、それまでのエレキベースよりも低い音程がベース音として使われるようになります。
そうした時代背景があった上で、多くのベーシストがシンセベースのように低い音程が出せるエレキベースの登場を望み、中には個人的にオーダーメイドで製作するベーシストが現れます。その一人として知られるのがジャズの巨人アンソニー・ジャクソンです。
彼がカール・トンプソンにオーダーしたのはコントラバスギターと自称するもので、ローB弦とハイC弦が追加された6弦仕様でした。同時期もしくは後にケン・スミスやマイケル・トバイアスが追従し、5弦ベースを含めた多弦ベースの歴史が作られます。
ちなみに、1960年代にはフェンダーがBass VIというモデルを発表しており、そちらが世界初の多弦ベースだとする説もあります。しかし、4弦ベースを元として発展させる形で作られたものではないのは確かです。
5弦ベースと4弦ベースの違い
5弦ベースと4弦ベースの違いは言わずもがな弦の数ですが、それに伴って多くの部品やデザインが変わります。まず言及したいのがハードウェアの面です。弦をチューニングするためのペグは4つから5つに増え、ブリッジは弦が増える分大きく重くなります。
全体の重量のバランスは変化するので、当然ながら4弦ベースとは異なるデザインが必要です。また、ピックアップの変化も見逃せません。ピックアップはマグネットにワイヤーを巻いたコイルによる電磁誘導を利用したマイクです。
ピックアップの特性はワイヤーの巻き数で決まることが多くありますが、4弦ベースと5弦ベースではコイルのサイズが変わるために、同じ巻き数でもワイヤーの長さが異なります。ワイヤーの長さが変わるということは、抵抗値が変わるということです。
詳細は専門的過ぎる内容なので割愛しますが、4弦ベースと5弦ベースで同じ音がするピックアップを作ることはできない、ということです。
弦が増える分、ネックの幅が広がるのも大きな違いになります。これは演奏性の部分にも影響しますが、考えたいのはサウンドの違いです。ネックは弦によって強い力がかかっており、ここのしなりや振動は最終的なサウンドに大きく影響します。
ネックの質量が増えて剛性が上がると、サウンドはタイトになる傾向があります。また、弦が増えて張力がます分ネックにカーボンバーを仕込んでより強度を持たせる手法もポピュラーです。この点もネックの剛性に大きく影響します。
これらの様々な点が複合的に作用して、4弦ベースと5弦ベースの違いが生まれます。理解したいのは、4弦ベースの音は5弦ベースでは出せない、そして逆も然り、ということです。
そのために、多くのベーシストは5弦ベースと4弦ベースを演奏する楽曲などによって持ち替えているのです。
6弦ベースやそれ以上の数の弦が必要なベースについて
広い音域を求めて5弦ベースが登場したように、6弦ベースやそれ以上の弦が張られたベースも現在は存在します。高音域が多く使えるようになると、メロディラインの演奏が容易になったり、和音の演奏が容易になったりします。
ただし、ベースとしての役割を考えるとハイC以上の弦は一般的には不要なため、ハイC仕様の5弦ベースや6弦ベースは少なくともワーキングミュージシャンにはポピュラーではありません。
5弦ベースのメリット
5弦ベースの特徴の中で4弦ベースと比べてメリットだと言える点を解説します。
広い音域
弦が増えた分、音域が広がるのは明確なメリットだと言えます。ロックやパンクなどの音楽においてはCやAmといったキーがよく使われてきました。しかし、R&Bやジャズといったカテゴリの音楽では、キーがE♭、D♭といった曲も数多く存在します。
E♭やD♭は4弦ベースでは演奏しづらく、実際にその音は少し腰高に響きます。そうした場面ではE♭から下のBまでカバーする5弦ベースは非常に有効です。
また、弦の数が多い、音域が広いことによってポジションの移動が少なく済むのも大きなメリットですね。
タイトな音質
ネックの剛性が増したり、ハードウェアの違いによって全体のバランスが変わったりすることによって音質がタイト気味になる傾向があることは前述しました。この音質は、現代の音楽においてメリットが出ることがあるのではないかと思います。
音の数が多い現代のヘヴィなアンサンブルが使われた音楽においては、タイトで硬めのサウンドは使いやすさがあります。
サポートワークを仕事とするベーシストの多くが5弦ベースを所有しているのは、アニソンやポップスといった音楽ではそうしたアンサンブルが多くあるため、という理由もあるでしょう。
ただしこれは表裏一体でデメリットであるとも言えるかもしれません。逆にいうと、4弦ベースのようにオープンなサウンドを得るのは非常に難しいです。ゆえに、多くのプロベーシストは4弦ベースと5弦ベースを併用しています。
汎用性の高さ
これは明らかなメリットだと言えます。理想を言えば、4弦ベースに適した曲には4弦ベースを、5弦ベースが適した曲には5弦ベースを使いたいところです。しかし、実際には2本のベースを持ち歩くことは容易ではなく、また機材面でもそれなりの準備が必要です。
4弦ベースでは5弦ベースの音域は演奏が不可能で、逆は可能なためにどちらか1つを持っていくのなら汎用性の高い5弦ベースが選ばれる、ということです。
5弦ベースのデメリット
5弦ベースの特徴の中で、4弦ベースに比べてデメリットだと言えるものを紹介します。
値段が高い
5弦ベースは4弦ベースに比べて値段が高いです。
一般的に工業製品は一万個、十万個と大量に同じものを作ることによって一個あたりの製造コストが下がり、提供される価格が下がります。
4弦ベースよりも市場が小さい5弦ベースではこの面にメリットがなく、製造コストが高くなってしまいます。
この問題は5弦ベースに使われるパーツも同様です。ただでさえ4弦ベースに比べてパーツが多く、大きいためにコストが嵩みますがこれら複合的な理由で最終的な販売価格は高額になってしまいます。
ちなみに、同様の理由で交換用の弦も4弦ベースに比べて高額です。継続的な支出になるランニングコストが高いという点についてはよく考えるべきかもしれません。
だからと言ってここを抑えるために質の悪い弦を使うのはあまりおすすめしません。(もちろん人によって好みや選び方は異なるのですが)
重量が重い
5弦ベースはネックが大きく、ハードウェアが大きく、当然弦も多いので重量が重くなってしまいます。おおよその目安としては、4弦ベースが4.0-4.4kgほどであるのに対して、5弦ベースは4.2-4.6kgほどだと考えてもらえればと思います。
もちろん、前述した目安よりも軽いものも重いものもありますが、それらはマイノリティだと言えます。
種類が少ない
4弦ベースよりも市場が小さいために、5弦ベースは種類が少ない傾向があります。楽器屋さんに並んでいるベースを見ると、やはり5弦ベースは4弦ベースよりも少量。マイノリティな存在です。
5弦ベースを愛用しているベーシスト
海外のベーシストとしてはジャミロクワイのポール・ターナー、スナーキーパピーのマイケル・リーグなどが5弦ベースを愛用するベーシストとして知られています。
国内ではRIZEのKenKenさん、TRIXの須藤満などが5弦ベースを愛用しています。
言うまでもありませんが、数え切れないほどに多くのベーシストが5弦ベースを愛用しています。今や5弦ベースはスタンダードなので、むしろ使わないベーシストの方が少数派だと言ってもいいぐらいかもしれませんね。
まとめ
本記事では5弦ベースの概要や特徴、メリット・デメリット、愛用アーティストなどについて紹介いたしました。
現代において、5弦ベースはベーシストの必修項目だとも言えます。ぜひ親しみを持って、一度手にとってみてください。
嵯峨駿介 /
ビギナーズ編集部 ライター
23歳でベース専門店Geek IN Boxを立ち上げ。海外ブランドとの取引経験が豊富でアメリカ、ヨーロッパ、中国などの主要ギターショウに参加。ベースマガジンなどの専門誌や、ウェブメディアなどへの寄稿多数。※本記事の内容は嵯峨駿介個人の意見、知識を基に執筆しております。所属するベーシック株式会社及びGeek IN Boxの総意を代表するものではありません。